ミラノコレクション2018−2019秋冬
2018-19秋冬のミラノコレクションは、盛況
のうちに2月26日、幕を閉じた。
参加メゾンの数は156。ショーが61、展示会
は92。
新しいメゾンの参加が増えて、若いエネルギー
が活気を注いだ今回のミラノであった。
世代交代は確実に進んで行く。
グッチのミックスの手法は、今やそこかしこ
に蔓延し、それが故にミラノコレクションは
カレイドスコープよろしく色や文字の散る華
やかな印象を見せた。
今回のコレクションは、素材の選択にも広が
りが見られる。
21世紀に入って以来、一様にヘリテージと
いう企業倫理が大いに語られるようになった。
さらにエコロジーというヴィジョンも相まっ
て、かつては当たり前に使用されていたカシ
ミヤや各種ウール、コットン、リネン、シル
クなどの天然素材についてその製法や加工法
などの特に手仕事に焦点が当てられてきた。
それが故に過去を振り返るといった懐古的な
気分に引きずられがちであったとも言える。
そういう期間を経て、今、ミラノは再び力
強く前進の方向にスイッチを切り替えた。
ここ2シーズンというもの、大胆なナイロン
やビニールの使用例が目立っていた。
今回も、前回にも増してこれらの素材の応用
がここかしこに見られた。
単に若いメゾンにとって経済的な解決である
といった理由のみならず、透明感や軽さが時
代の感覚を表しているように感じられる等も
あろう。下に重ねた柄が透けて見えることの
面白さ、質量を意識させないが、光によって
その存在が強調されるなどの特徴が魅力的だ。
今や避けて通ることはもはや不可能な工業生
産の方式。現実を見据えた時にそれが可能と
する各種のテクノ素材、人工素材が再び浮上
していることには、全く不思議はない。
プラダは、80年代にポコノというナイロン
を使った黒のザックやバッグで爆発的な人気
を取り、それ以来躍進の一途をたどって現在
に至っているが、今回の婦人コレクションに
おいてもこの懐かしい黒のナイロンのコート
が新鮮に映った。実に魅力的であった。
同メゾンは、他にラバーを用いたアグレッシ
ヴな長い丈のジレや、チュールの袖なしのフェ
ミニンなドレスなど、人工素材を積極的に使
用した。それらを組み合わせたその結果はこ
の上なく現代であり、あるいは未来をすら思
わせもする内容となった。
モンクレールは今も変わらず、ダウンを用い
たコレクションを発表しているが、今回は5
人のクリエーターを招いてのインスタレーショ
ンで各人のコレクションを見せるという形式
をとった。
ヴァレンテイーノのクリエイテイヴデイレク
ター、ステファノピッチョーリは、ダウンと
いう素材ならではのフォルムを考案した。あ
たかも古代エジプトの神殿のなかの彫像を見
るかの、あるいはSF映画の1シーンを思わせ
るかの縦長の円錐型のダウンのインスタレー
ション。
そこに漂う緊張感は、観るものの心を大いに
刺激する、非現実の魅惑的な内容だった。
ID誌の編集者は、このインスタレーションに
魅入ってしまい、このダウンを買いたいと思っ
ている自分を発見した、と興奮していた。
80年代に言及するメゾンが多いなか、当時
のヴェルサーチェの、さんざめくスパンコー
ル刺しゅうで埋めたドレスを彷彿とさせる光っ
たラメ入りの素材もまた、幾つものメゾンが
使用していた例の一つである。その技術でポッ
プアート風に絵を描くメゾンには、モスキーノ
などが挙げられる。
PVCを好んで使うアンアキキのデザイナー、
アンナヤングは、エネルギーと才気に満ちて、
間違いなく、今後を牽引するデザイナーの一
人である。モヘア糸のポケットが付いたウー
ルのコートの上にさらに透明なPVCが重ねら
れたコート。テカテカに光るエナメルのコー
ト。カシミやのパーカの下にオーガンジーの
スカート。こうした組み合わせでスタイルを
作っていく彼女の服の素材もこの上なく今を
表している。
”今の勢いで服の製造を続けていったら、2050
年には現在の3倍の水や大気の汚染が現実化
するという計算になります”、とアンナはいう。
”トレンドを意識することもありません。
大きく売り上げを上げるとか、より広い市場
を獲得するとか、そういうことは目的ではな
いのです。考えて、ゆっくり丁寧に長く着ら
れるものを少なく作る。これが私のモットー
です、”と語るが、彼女の服の素材はこの上な
く今を表している。”PVCとウレタンは応用範
囲が広い、”と毎回使用している。
また、フェンデイは、チェックの布帛の上に
PVCを凝着によって一体化させた素材による
トレンチコートなどを通じて、メゾンの、工
業的なハイテクノロジーとの関係を今回も表
明していた。
一方、いうまでもなくモヘヤやカシミア、シ
ルクなどの天然素材も健在である。
特に皮革のすぐれた応用例が目に付く。
スウェードやナッパ、エナメル加工を施した
皮革、ムートンなども含めて、これらは極力
エコロジーの意識に沿って服の製造を行って
いくという姿勢の提示でもある。皮革を扱う
において不可欠な高いレヴェルの手仕事への
誇りの表れでもあろう。
例えば、トッヅもナッパを見事に操って革製
品のメーカーとしての面目をさらに躍如した
感がある。50−60年代の花柄のスカーフや80
年代の連続柄のスカーフをそのまま復刻させ
たシルクのドレスやブラウス。グッチやヴェ
ルサーチェにこうした素材使いも伺われた。
当時との違いは、スタイルがトラッシュな点
だ。グッチはその上に豹柄プリントの上着を
合わせ、そのモデルのクローンの頭部を腕に
抱えさせて現れた。アルマーニ氏は、”行き過
ぎである”、という談話をすかさず発表したが、
中国人バイヤーホーさんは、自分のお客だけ
に限った数字ですが、と昨年比の85%増の売
れ行きであると,微笑みながら語っていた。
前回のイタリアファッション協会主催の、グ
リーンカーペット賞の流れも消えてはいない。
ヴォーグイタリアとユックスは今回11回目
になる新人発掘コンテストをグリーンタレン
ト賞という名称に変えて、各国籍の7人を選
んでコレクション期間中に発表の会を開催し
た。
若い世代のこのテーマへの関心は思いの外高
い。
メラニーブラウンのブランド、バイブラウン
は雨用の服を得意とする。その素材は、使い
終わったコーヒーの粉あるいは乳酸菌などに
リサイクルのポリエステルを組み合わせて作
り出す。コーヒー粉による素材作りのキャリ
アは10年になるという。オランダ人ならでは
日常から発したアイデアだ。”無駄をしない、
無駄にしないというのが私の基本的な姿勢で
す”。すでにエコロジー関連の賞を受賞してい
るイタリアのテイツイアーノグアルデイーニは
この度は、ソステキブルなコットンのデニム素
材メーカーと蚕を殺さぬように防御したエコオー
ガンジーとで織り上げた素材、ジーンズの毛皮、
を用いてジーンズとは思えぬ柔らかなシルエッ
トのロングスカートなど50点のコレクションを
披露した。
エコロジー素材の開発には、意識の問題のみで
は解決できない各種の工業的な技術が不可欠で
ある。一般素材の3倍の費用がかかるという。
リサイクルとソステナブル。若い世代がこの意
識のもとに少しづつ、服の社会的な意味や役割
を思考しながら、新たなファッションの価値観
を作り上げていっている、という手応えを覚え
た。避けては通れぬ将来の課題であろう。
了。
矢島みゆき