2002年のファッション状況。ミニマリズムの終焉。

ミラノコレクションの新潮流 Trendsetter 2002年3月.

ミラノ・コレクションの新潮流                      


ミニマリズムとシステムの時代の終焉

アーティスティックなデザインという名の下に、自由な発想で純粋に表現としてのデザイン活動が盛んだった80年代。大量生産や効率を意識することなく、若者達は溢れる熱気を込めて思い思いのオブジェを日々創り上げては発表し、それがある種の熱狂をもって受けれ入れられた、そんな時代だった。

こうした傾向は、工業デザインのみならずファッションの領域においても同様であった。ヴェルサーチやクリッツィア、G.F.フェレを中心として、色彩と装飾に溢れ、ポストモダンの流れを受けたデザインの要素を様々に組み合わせたファッションが、次々とコレクションで発表された。

やがて80年代後半を迎えると、その反動のように、人々の関心は、装飾や多様性を極力排除する方向へと移って行った。50年代のミニマルアートが参考にされて、いつしか世の中は最小限の面と線から構成された家具や雑貨に埋まり、ブティックは白い壁と白い光の空間と化し、リビングルームはショールームのように生活臭を無くしていった。同様にファッションも、黒と白を基調とする無彩色の世界となり、シンプル極まりないチューブ・ドレスのバリエーションやTシャツ型のニットが数多く登場、人々の暮らしからビビッドで温かい色彩が消えていった。工業生産システムは加速度的に洗練されると同時に単純化されて、大量の製品が生産可能となった。これまでの高級品が急速に普及し始め、各メゾンはこぞってマーケティング重視のファッション・システムを取り入れて莫大な利益の獲得に向けて突進した。ところが皮肉な事に、こうした市場第一主義、利益優先の政策は各ブランド間の差異を無くして行き、人々の商品に対する関心が少しずつ減少するという結果を呼んでしまったのである。

手仕事によるアーティスティックな表現の台頭

90年代後半、ビジネスを拡大することよりも、自分なりの物作りに情熱を覚える、年令にすると40才前後の人々の手に成るコレクションが台頭する。

例えばアントニオ・マラス。88年から活動を始めたサルデニア出身のマラスのコレクションが、人々の注目を集めるようになるには99年まで、優に11年を待たなければならなかった。2002年春夏のコレクションは、巨大な作業用のやぐらを組み立てた舞台を使って、ドラマチックなショーを展開した。ずらりと並んだ男女のモデル達、その一点一点がそれぞれ各々異なる生活背景を表現するというユニークな試みだった。それらの服に共通しているのは、見るからに手の込んだ手仕事で成っている点で、レースや刺繍、アップリケなどの豊かな装飾が見られる。ノスタルジックでドラマチックな雰囲気の漂うマラスの服は、あらゆる工程を実験すること、カットを考察すること、ドレーブを作ること、しわを寄せること、刺しゅうを施すこと — これらの過程を延々と繰り返しながら数ヶ月を過ごして、ショー開始のほぼ2週間前にようやく最終の型に至るといった作り方だ。2002年春夏に作品を発表したロベルト・ムッソは手染めあるいは手描きのコレクションを特徴としている。「自分のスタジオから出ていく製品は全て、最初から最後まで自分の手と眼で完璧にコントロールしたもの」であることを強調する。コロンバ・レッディも同様である。この15年近く、さほど規模を拡大することなく、心から気に入った布を使い、丹念にビーズや刺しゅうを施し、手仕事を重視した物作りを続けてきた。しっかりと自

分のアイデンティティを持つ独特の個性が根強い人気を博している。シチリア出身のデザイナーである、マウリッツィオ・ペコラーロは、製品のすべてをライセンスで生産するので自社工場は持たない。サンプルだけを自分の手で作っている。凝った刺しゅうやレースを製品に施す場合は、その作業に適した工場をイタリアのみならず、インドやネパールにまで自ら出かけて行って捜しては、説明しながら作ってもらう。生地もオリジナルを捜し出す。ペコラーロのコレクションは、こうして繰り返される旅の成果なのだ。世界各地の素材や技術や装飾の集積から成るコレクションなのである。装飾は刺しゅうをはじめ、複雑なドレープ、無数のアップリケ、カットワーク、イラストのプリント、パッチワークと限りなく多岐にわたる。手仕事職人に依存した服作りのため一型について、150~200点と製造数はとても少ない。売り上げも4年目の現在で約6億円と、そう大きくないが、ペコローラは、あえてその方向を選んでいるのである。「自由でいたいから、このくらいの事業規模がちょうど良い。品質を大切にして自分の作りたいものだけを作っていきたい」と言う。作るという行為はそう容易なものではない。現実を次々と克服していかなくてはならず、常にクリエイションを続けていくには息つく暇もない。しかしそうした過程を経て、何も無かったところから服が生まれ出てくるのを見るのは、想像を超えて感動的なものだ。今、再び80年代に見られたような、アーティスティックなデザイン活動がよみがえり、装飾が求められている。情報を各々のアイデンティティを通じて創作に結び付ける際の、表現者としてのアーティスティックな感性が問われる時代を迎えている。こうしたデザインの表現にはテクノロジーの確保が欠かせないが、そのテクノロジーは、必ずしもハイテクノロジーである必要はない。ローテクノロジーの方が、かえって重要になっている。2002~2003年秋冬のミラノ紳士コレクションでも大方のメゾンが無難にクラシックに移行させている中で、ロメオ・ジッリやエトロは、新しい時代の傾向を大きく先取りしていて印象的であった。

Trendsetter 2002.3月                                                            矢島みゆき