天才たちのミラノ。モードの最前線。high fashion 1999 12月

天才たちのミラノ//モードの最前線

ミラノ•モードの今

 イタリアのファッション生産にうかがえる、優れた工業生産システム素材への感受性。それを土台にして生み出される数々のモード。すなわちこの「知と情」の結合した創造は、’90年代ももすぐ終わろうとしている今、さらにその特徴を強めつつある。

 イタリアが中世から得意としてきた各種天然繊維の製造に加えて、最近のテクノロジカルな素材の開発にも力を注いでいる状況は、ミラノ•コレクションを見るにつけ、誰の目にも明らかである。今や、世界中から製造依頼を受け、モードの生産基地として機能するイタリアは、自らの伝統に忠実なだけにとどまることが許されない運命を担わされてしまっている。こうして一昔前には想像もできなかった、エラスティックなカシミアやエラスティックなシルクなどが、ごくなじみの素材となる現実が生まれている。プラスチックの応用でも同様だ。諸外国のプラスチックの応用が、直裁的でそこに意匠が見られないのに対し、イタリアにおけるプラスチックの開発は常にデザインを伴ったものである。

 美しいものへの感受性を土台に、常に新しいものを作り出そうとする姿勢。これこそがイタリアを世界の生産基地として保証する特徴なのである。若手は、若さとエネルギーを大いに活用して次々と新しい素材を考案、開発し、コレクションの発表に余念がない。さらにコンピューターや情報システムの応用によって、よそで開発された新素材についてのデータを収集することにも積極的である。巨大な資本力は駆使できないので、インドやインドネシアやアフリカなどの生産力を利用して価格を抑え、それを単なる廉価商品に収めてしまわないために、自ら色彩感覚や趣味を最大限に生かすことを考える。あるいは自ら染めたり描いたりすることで、世に二つと同じものがないといった個性の強い商品を作り上げるのだ。また長年コレクションした各国の優れたテキスタイルでフォルムをデザインすることで、世にない服を誕生させる。規模こそ小さいが、くっきりとデザイナー固有の世界が浮かび上がるのたびに、ファンはその世界に釘づけになる。数は巨大ではないが、世界各国に散在する顧客たちを合計すれば、3〜5億円ぐらいの売り上げになる。

 今、ミラノはこの種の新世代デザイナーが続々と台頭している。彼らの強みは、自分の世界へ自意識に支えられたコレクション作りをしているプライドにある。利益の追求と考察は二の次なのである。こうした基盤は、次の時代のアバンギャルドの誕生を彷彿させる。手仕事が工業生産でシステム化されれば、短期間のうちにアバンギャルドなファッションの誕生も可能になるだろう。

 それは現在ミラノで一番のアバンギャルドたるプラダとミュウミュウのあり方に重なる。1990−2000秋冬ミラノ•コレクションにおいても、この二つのメゾンは、幾種もの機能を同時に装飾の要素としても応用するという新しい服の言語を編み出した。その上にロマンティシズムやエスニックが加味されている。これだけの操作が可能なのは、描かれるべき自らの世界、あるいは目標が鮮明であるからだ。

 今、台頭しつつある若手デザイナーたちの意識のあり方は、まさにその点においてプラダやミュウ ミュウに共通している。画一的に、伝統な生産システムに乗せて、ほぼ自動的に作り出す服が商売になる時代は終わってしまったのだ。今後の鍵は、強い自意識と高度の創造力に支えられた「才能」、言い換えれば「知力」にある。あとは情報収集と選択能力が要求されよう。製造上の秘訣はそれらの能力が解決してくれるはずである。

 時代は確実に動いている。                       矢島みゆき

 

 

High Fashion 10 October  1999 No.269